電気屋さん

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電気屋さん

 うちの主人はね、電気屋だったの。 結婚した時に独立してね、 町で一番の電気屋さんになって、 子供を二人授かった。 子供たち二人が、独立して、 (さぁ~、これから二人で楽しみましょう)  そう思ったら、 何の前触れもなく倒れてしまって。 そのまま、意識も戻らずあの世往き。  悲しいけれど、悲しむ暇もなくて。 だって、店の経営が、あるでしょ? 葬儀告別式が、済んですぐに 電気屋を経営するために必要な“資格”を調べて、 そこから勉強して、三か月後に、 都会まで資格を取りに出かけて。 なんとか、合格して、それから、 “町の電気屋”として、ずっと働いたのよ。  でね、コロナがあったでしょ? 近所にも大型家電の店舗も出来て、 (ああ…もう、終わりなんだな)  そう実感して閉店したのよ。 店は、シャッターを下ろしたままで 嫁いだ娘が 「お母さん、グランドピアノを置かせてね」  そう言うもんだから、調律だけはして いつでも弾けるようにはしてあるの。 私も時々、指の練習とかで鳴らすの。 幸い、ご近所も空き家が多くて、 クレームを言う人も居なくなっちゃった。 そうなると、ほんとに寂しいものよ。 だから、こうして仲間が、新しく出来るとね嬉しいの。 ただ、それだけ。 2024.6.15(土)記
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