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「私には人のホクロが星座のように見えるの」さっき道端で声をかけた女が話し始めた。僕は話の続きを待った。
「昼間だろうが服を着ていようが関係ないの。ホクロが輝く星のように見えて、しかもそれらが線で繋がってるのが見える。いろんな形の星座たちがうじゃうじゃ歩いてる」
生まれつき、そんな風に見えるの?と尋ねてみる。
「こんな風に見えるようになったのは、高校2年生の部活の帰りのときだったの。冬でとても寒い日だった。乗り換えの駅で10分ほど電車が停車したとき、床に黒い筒が落ちているのが見えた。周りを見渡すと誰もいない。その黒い筒を拾ったら、それは万華鏡だったの。万華鏡を覗くと、キラキラした星たちが見えたの。綺麗だなとしばらく見えていたら、その星たちがこっちに向かって飛んできた。一斉に何百という星が目に向かって飛んでくるの。びっくりしてすぐ目を離したわ。目には何の痛みも感じなかったけど、そのときから私はホクロが星座に見える。最初は駅員さんだった。ホームで立っている駅員さんが星座に見えた。あの万華鏡を見てから、最初に見た人がその駅員さん。その駅員さんはもう星座になっていたわ」
僕はどんな形の星座に見えてる?と尋ねた。
「あなたは何も見えないの。何の星座も見えない。あなたはあなた自身の肉体しか見えないわ。きっとあなたにはホクロがないんじゃない?」
そう言えばホクロはなかったかもしれない。
「私ね、ホクロのない人って初めて見たの。あなたが最初の人。みんな一つぐらいはホクロがあるの。それが全くないってあなたは奇跡なのよ」
僕はうなずいた。でもそれは何の意味も持たないうなずきだった。
「だからね、私、あなたに声をかけられた瞬間に、あなたに抱かれたいって思ったの。ホクロを持たないあなたに抱かれたら何か変わるのかなって思ったの」
彼女はじっと僕の目を見ていた。その目は真剣そのものだ。元々僕が声をかけたのだ。可愛い女の子から抱かれたいと言われて嬉しくないはずがない。
「抱いて」と耳元で彼女がささやく。
僕は彼女を抱きしめる。キスをして、服を脱ぐ。
彼女のいろんな場所にキスをする。彼女も僕のいろんな場所にキスをする。
「何もつけないで、そのまま挿れて。大丈夫だから」僕らは生で交わり合う。温もりの中で僕のものを強く締め付ける。
「そのまま中に出して。お願い」僕は言われるがまま彼女の中に射精する。彼女はしばらく目を閉じていた。何か祈っているように見えた。
それから街に出かける。
彼女はもう星座は見えなくなったと言った。
あなたのおかげよと彼女は笑顔になる。
そういえば初めて彼女の笑顔を見た気がする。
空を見上げると、一番星がこちらを見下ろしていた。
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