空に落ちる 【ユフの方舟3】

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◇◇◇  西暦2182年。  隕石が現れた。  そのユフと名付けられた隕石は観測をくぐり抜けて突然発生したのだという。そしてそれほど大きくないその石は地球に落下し毒を振りまいた。その毒は致死毒。一瞬触れるだけでもその心身は汚染され、それを体内に吸い込めばたちまち人間は死んでしまう。そんな不可避の毒。  この国はユフが落ちた場所から少し離れていて、その影響が知れ渡った直後に国全体で地下に避難することを決断した。厳しい自然環境下におかれたこの国はすでにジオフロント構想によって巨大な地下都市空間の創造に着手していて、幸運にも多くの国民が大深度地下に逃れることができた。そもそも人口が少なかったのもある。他の多くの国は滅びたらしいと習ったけど、通信が途絶えてもう長いから実際はよくわからないみたい。交信しようにも連絡網はすでに朽ちて、外はユフ毒に満ちているから出ることはできない。  それからだいたい300年。  これまでこの都市では大気を合成し、地中鉱物を利用して構築物を作り、汚染前に地上から持ち込んだ動植物と土中の微生物、それから核融合により人工生成した太陽で食物を作って生活をしていた。人間の暮らしというのは私たちにはよくわからないものの、都市の生活は安定していたようだ。  けれども現在この都市は危機を迎えていた。ユフ毒はゆっくり、ほんの少しずつ地面に浸透し、もうすぐこの地下都市に到達してしまう。地中を進むユフ毒がこの都市に到達すれば確保していた全てが汚染されてしまう。そうするとこの都市は滅ぶ。  だから私たちが人間の新しい移住先を探すのだ。私たちはそのために作られた。  これが私たちが生まれて最初に学ぶ基礎的な認識。そこから科学、地学、物理、工学、病理等の仕事に必要なことを学ぶ。1人1台の居住カプセルが支給され、その中で寝泊まりする。横たわるとヘルメット内に開かれるモニタで必須情報を一通り学習した後は、各自好きな情報を見て過ごす。モニタは様々な情報に繋がっていて、より深い内容の講義、昔の地上の映像、映画やドラマというストーリーのある人間の話、カートゥーンと呼ばれる動く絵、そんなもののデータが大量にあった。
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