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 彼女の掃除は一時間続いた。途中見つかってはならないものが何度か見つかり、その度恥ずかしい思いをした。なんなのだこの拷問は?俺は悪くない。  俺は掃除を手伝いながらまたチラチラ彼女を見ていた。何度も言うが本当タイプだ。芸能人を入れても俺の中で一番綺麗だ。さっきは、絶望したがこんな綺麗な子と十日も一緒にいれるなら十分じゃないか?俺は良い方に考える事にした。今はなくても俺を好きになってくれる可能性もゼロではない。頑張れ俺。  俺がそんな事を考えていた時、彼女の手が止まった。  「この写真は?」  彼女はあいつと俺の2ショットの写真を手に取り俺に聞いた。  「ああ、それは中学の時の親友だよ」  「とっても仲良さそうですね」  「俺にとって一番の親友だね」  「一番の親友......この人とってもカッコいいですね」  「うわっ、そうだよね。君もだよね」  「君もって?」  「いやそいつまじでモテモテだったんだよ。俺が好きになる子みんなそいつのことが好きでさ。俺、そいつのせいで中学の時の告白全敗だから」  彼女は笑った。  「それでも友達だったんですね」  「そうだね。最高の友達だったよ」  あいつ、伊野星弥(いのせいや)は俺の中学の時の親友だ。親友とかいて「ダチ」もしくは「ツレ」と読む。俺の中学生活のその全ては星弥との思い出だ。そう言っていいくらい星弥とは馬があったし、一緒にいた。ま、星弥の進学の事情で卒業前はあまり一緒にいられなかったのだが。  それでも星弥は最高の親友だった。  彼女によって俺の部屋は見違える程綺麗になった。俺の部屋とは思えない。なんて部屋だ。  掃除を終えた彼女は俺をドキドキさせた。  「お風呂借りてもいいですか?」  「あ、左がお風呂です」  風呂ー!!!!  当たり前かもしれないがここに住むという事はそういう事だ。でもその妄想はしていなかった。風呂はやばいだろ。だって風呂だ。裸だ。  妄想が最高潮の俺にスーツケースから色々取り出して準備を終えた彼女が、漫画などでよくあるお決まりの台詞を言った。  「覗かないでくださいね」  俺は赤面した。覗きはしない。それは勿論だ。だが、こんな狭い部屋であんな綺麗な子が薄い扉一枚の先で裸になるなんて......。それだけで俺は幸せだ。この訳の分からない状況も最早幸せだ。しかもそれがあと九日もある。改めて自分の置かれてる状況に酔いしれた。  彼女がお風呂に入っている音にドキドキしながら俺は次の段階の事を考えていた。  「どうやって二人は寝るのだろう?」  俺の部屋の寝床は折り畳み式のシングルベットだけだ。ロフトでも寝れるがロフトはさっき使用不可能になったし、せっかくなのでロフトで寝たくない。距離ができる。ロフトを提案された時は「暑くて寝れない」と言おう。実際夏はとても暑くて寝れない。今はまだ夏ではないのだが。  俺がそんな事考えていると彼女が風呂から出てきた。風呂上がりの彼女はさらに綺麗だった。白く細い身体。パジャマから見える洗い立ての彼女の素肌。シャンプーの良い香り。心臓が壊れてしまうんじゃないかと思うくらいドキドキしている。  「じゃあ俺も入ろうかな」  そう言って俺は風呂場に入った。つい先ほどまで彼女がいた風呂場に俺は緊張した。大学に入ってから約三年毎日使ってきた場所なのにこんなにドキドキするとは。美人の破壊力凄まじいな。俺はそんな事を考えながらシャワーを浴びた。  「お前は顔だけで選ぶからダメなんだよ」  星弥の言葉がふと俺の中で再生された。  「女はな、愛嬌だぜ。愛嬌。中身ブスの女とかいくら顔よくてもダメだから」  中学告白全敗の俺とは対照的に星弥は毎月のように女子から告白されていた。うちの中学で星弥に惚れていない女子はいなかったのではないかと思うほどだ。けど、あいつは誰とも付き合わなかった。  「女はいらねぇよ。俺にはお前がいるからな」  カッコつけてたのかなんなのかわからないが星弥はそう言っていた。俺はその言葉が嬉しかった。  俺が風呂から上がると彼女は俺のベットで横になっていた。  「私はここで寝ますので、おやすみなさい」  そう言うと彼女は壁の方を向いた。  今日何度目かわからない、なんなのだこの女は?と俺は思った。でも、美人だから許すしかない。  「だからお前はダメなんだよ」  星弥の言葉が木霊(こだま)した。  電気を消し、俺は炬燵テーブルのところで寝る事にした。携帯を見ると時間は二十二時前だった。いつも日付が変わってから寝る俺は全然眠くなかった。しかも今日は1m先で美人が寝ている。どうやっても寝れないだろう。欲望が抑えても抑えても沸き上がってくる。だって俺は二十一歳の健全な男子大学生だ。この状況で欲望が湧き上がらない男がいるのなら教えてほしい。俺の戦いが始まった。  時計を見るとまだ二十三時だった。一時間戦い続け、勝ち続けた俺はだいぶ冷静になっていた。彼女は少しも動かない。寝てしまったのだろう。少し起き上がって彼女の顔を覗こうとする、綺麗だ。俺の冷静はすぐに欲望に負けてしまいそうになる。いかんいかん。俺は天井を見つめることにした。  高い天井を見つめながら俺は星弥の事を考えていた。  俺と星弥は中学の入学式で出会った。同じクラスで席が隣だった。  東証一部上場の伊野グループ会長の御曹司(おんぞうし)だと言う星弥は第一印象から違っていた。綺麗な顔立ち、堂々とした態度、自信に満ち溢れた声。正直、会った時は仲良くなれる氣が全くしなかった。でも俺たちは親友になった。  きっかけは漫画のONE PIECEだった。授業中俺が隠れてONE PIECEを読んでいると星弥が話しかけてきた。  「それ面白いの?」  「面白いよ。読む?」  その時俺が読んでいたのは七巻だったが星弥はそれからONE PIECEにどハマりした。  「やっべーな!この漫画、俺漫画とか映画で泣いたの初めてだぜ。そしてルフィかっこよすぎるだろ」  「お!わかるか。これがONE PIECEだ」  俺は尾田栄一郎さんでもないのに自慢した。  それから俺たちは終始一緒にいるようになった。バカなことも、人に言えないことも、恥ずかしいことも一緒にした。俺の青春すべてが星弥と共にあった。あいつは最高だった。    星弥の事を考えているといつの間にか俺は眠っていた。  竹馬の友、無二の親友、まぶだち  どの言葉でも俺たちには足りなかった  だから俺たちは互いを「俺の半分」と呼んだ    
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