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一
「う……」
とき が面をはずしたとたん、上座の面々が息をのむのがわかった。
ときにとっては慣れた反応である。
「ごらんのとおり、化け物の面相にて失礼したします」
ときは慇懃に詫びる。その彼女の顔の左側、ひたいから目のまわりを通り、唇の左端にかかるところまで、赤黒くただれた、やけどあとが広がっている。
ときが小さく頭を下げるのを、上座の中央に座っていた女が、片手で制した。
「よい。こちらこそ失礼しました。面をつけてください」
そして、かたわらの若い武士とお付きの女中に「よいな」と念を押した。ふたりとも目を伏せてうなずいた。
ときは父の土門鬼一郎とともに、ここ冬馬藩十万石、草壁家の、江戸にある中屋敷に来ていた。
通されたのは、飾り気のない板敷きの部屋である。広さは十畳ほどであろうか。
父娘が一室の下座に座り、上座には、用人のほか、お世継ぎの乳母、乳母につかえる女中、護衛をつとめる若い武士、の四人が並んでいる。
そのうちの若い武士が、先ほど用人が止めるのも聞かず、ときに向かって「面などかぶって無礼であろう」と叱責し、ときは面をはずしたのである。
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