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 なかは、畳敷き十二畳の広い部屋だった。奥の突き当たりは腰高障子で、外の光を取りこんでいる。おそらくは、その向こう側に中庭でもあるのだろう。普通ならば、部屋のなかは明るいと感じるところである。しかしときの目には、煙草の煙でもこもるように宙に濁った気配がただよい、光をさえぎっているように見えた。  その陰った部屋の奥のほうに、布団が敷かれ、夜着をまとって、ひとりの子が寝かされている。  布団のこちら側には、坊主頭の初老の男が座って、子のひたいに手を当てていた。あれが医師の宣宅であろう。宣宅のかたわらには、助手らしい若い男が座っている。  宣宅がこちらをふり向いた。温和な表情の、四十がらみの男である。 「竹丸君はおやすみになっておられます。薬が効いたようです。診察はもう少しで終わりますので、お待ちください」 「ありがとうございます。突然押しかけて失礼いたします」  たえが声をかけているうちに、鬼一郎はときに目で問いかけていた。  ときは、あらためて寝床のほうへ顔を向ける。  そこは、よりいっそうのどんよりとした瘴気(しょうき)に包まれており、あやかしの気配に満ちていた。  ときは鬼一郎に無言でうなずく。 「そつじながら」  ときの意をくみとって、鬼一郎は宣宅に呼びかけた。「診察をいっとき中断して、われらに若君を見せていただきたい」  まわりの者たちが、いっせいにぎょっとするのがわかった。
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