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「なにを申される」  宣宅がむっとした表情を見せた。「どなたかな?」 「それがしは土門鬼一郎、こちらは娘のときと申します。乳母さまより、あやかし退治をおおせつかった者です」 「あやかし……」  宣宅の視線が横に動いて、たえに突き刺さる。 「たえさま、まだそのようなことを申しておられるのか。確かにそれがしの医術は未熟かもしれぬが、せいいっぱいの施術をしております。あやかしだのなんだのと騒ぎたてるうちに、若君の身体は衰弱するばかりでございますぞ」  医師のきびしい言いように、しかしたえはひるまない。 「宣宅どの、まずはお詫び申します。しかし、ことは急を要します。どうか、この者たちの言うとおりに、曲げてお願いいたします」  宣宅が顔をしかめ、しばらくたえを見つめた。が、どうしようもないと知ると、あきらめたように嘆息した。 「……診察を、中断すればよいのだな?」  宣宅が鬼一郎をにらみつける。 「かたじけない。これ、とき」 「はい」  父にうながされ、ときは立ち上がった。刀をかかえた、かたわらの女中もうながす。
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