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「刀はこちらでよかろう」  倉田が文句を言うが、鬼一郎はおだやかで、しかし有無を言わせぬ調子で制した。 「用人どの、先ほど約束されたではありませんか。それに、若君のそばへ寄るのは、娘のときだけにいたします。小娘ひとり分の刀がついていっても、さほど心配はご無用かと」 「くっ……」  倉田はにくにくしげに顔をしかめたが、結局は容認した。ときに向かって、あごをしゃくる。  ときは竹丸の寝床の向こう側にまわると、かたわらにひざをついた。刀をかかえた女中を指図して、すみのほうにひざまずかせる。  それから、寝床をはさんで向き合うことになった医師に向かい、目を伏せて、 「宣宅どの、しばしの間、あちらの、たえさまのほうへ行っていただきたいのですが」  きわめて慇懃(いんぎん)に頼んだ。  当然、宣宅が顔色をなす。 「なに? この上、離れていろ、と?」  あわてて、たえがとりなす。 「宣宅どの、重ね重ね申しわけありません。どうか、その者の言うとおりに」  宣宅は怒りに顔を赤らめつつ、たえとときの顔を交互に見やったが、ふいに舌打ちして、立ちあがった。 「では、ほんのしばしの間だけじゃぞ。それから、若君には手を触れてはなりませぬぞ。せっかくお休みになられたのじゃ。よいか」 「かしこまりましてございます」  相変わらず目を伏せたまま、ときは返事する。
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