2人が本棚に入れています
本棚に追加
どれほどそうしていたであろうか……。
やがて、虫は動かなくなった。
じっくりとそれを確認したときは、
「う……うんんぅ」
全身を使って、ふたりを串刺しにした刀を抜いていった。
刀身に黒い液がついている。鬼一郎の赤い血はどこにもない。
刀を持って、ときは立ち上がった。ハアッと大きく息をする。ほっとしたせいか、足が少しふらついた。
「お……わった……か……」
言ったのはときではない。鬼一郎である。
宣宅の上に、いや、巨大な虫の上に重なっていた鬼一郎が、刀でつらぬかれたことなど、まるでなかったかのように、のそのそと立ち上がった。
彼はあらためて足元の虫を見て、ときに尋ねた。
「これ、一匹か?」
「はい」
ときの答えは明確だった。
鬼一郎はうなずき、たえのほうをふり向いた。
「乳母どの、あやかし退治が終わりましたぞ」
そう宣言しても、たえも、そのほかの者も、しばしの間、目を見開き、その場に凍りつくばかりであった。
最初のコメントを投稿しよう!