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 どれほどそうしていたであろうか……。  やがて、虫は動かなくなった。  じっくりとそれを確認したときは、 「う……うんんぅ」  全身を使って、ふたりを串刺しにした刀を抜いていった。  刀身に黒い液がついている。鬼一郎の赤い血はどこにもない。  刀を持って、ときは立ち上がった。ハアッと大きく息をする。ほっとしたせいか、足が少しふらついた。 「お……わった……か……」  言ったのはときではない。鬼一郎である。  宣宅の上に、いや、巨大な虫の上に重なっていた鬼一郎が、刀でつらぬかれたことなど、まるでなかったかのように、のそのそと立ち上がった。  彼はあらためて足元の虫を見て、ときに尋ねた。 「これ、一匹か?」 「はい」  ときの答えは明確だった。  鬼一郎はうなずき、たえのほうをふり向いた。 「乳母どの、あやかし退治が終わりましたぞ」  そう宣言しても、たえも、そのほかの者も、しばしの間、目を見開き、その場に凍りつくばかりであった。
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