2/2
前へ
/17ページ
次へ
 ときは冷ややかな笑みを浮かべて、女に答えた。 「わたくしのほうは、このままでも一向にかまいませぬが。むしろあやかしと戦うとなれば、このほうが動きやすいのです」  それは本心であった。面などつけていては、あやかしと斬り合えぬ。 「さようか……では、好きなように」  中央の女、 と名のった乳母が、もう一度小さく頭をさげた。  父の鬼一郎(きいちろう)が説明を加えた。 「娘は五年前、あやかしの騒動でやけどをおいました。それ以来、あやかしの気配を感じ、見ることができるようになったのです。それで、あやかし退治の仕事をするときには、つれて歩いております」  鬼一郎の説明に、たえは「なるほど」という顔で、再度ときに目を向けた。今度は顔ではなく、全身を見やる。ときは十七の娘ではあるが、いまは髪を総髪に結い、男物の(はかま)をはいた若武者の姿である。  たえはひとつうなずくと、視線をときから鬼一郎に移す。 「用人の倉田(くらた)から、あらましの話は聞いたでしょうが、もう一度わたしの口から、これまでのことを話しましょう」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加