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「刀については……」
言葉につまったたえが目を向けて促すと、用人の倉田が答えた。
「まずは、あやかしを見つける。次に、人を遠ざけ、おぬしたちに太刀を返す。最後に、あやかしを退治してもらう。どうじゃ、それでよいのであろう?」
「そのように悠長なことを申していては、不測の事態に間に合わぬかもしれません」
「うぬっ」
生意気な小娘、とばかりに、倉田がねめつけてくる。
「あいや、お待ちください」
鬼一郎が両手をあげ、倉田をなだめにかかる。鬼一郎は、昔、手習い所で師範をしていた。そこでつちかわれた柔らかさが、こんなときに役に立つ。
「これから、若君のご様子も見せていただかなければなりません。となれば、どこの馬の骨ともわからぬ者に刀を渡しては、用人どのも不安でしょう。拙者にひとつ考えがあります。このようにしてはいかがでしょう?」
そう言って、喜一郎が代替案を出した。
もちろん、ときが家人をたきつけ、喜一郎がなだめて代替案を出すというこれらのやりとりは、こうした屋敷で仕事をするときに自然に身につけた、喜一郎とときの交渉術なのである。
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