1/3
前へ
/17ページ
次へ

「父上」  鬼一郎から少し遅れて歩きながら、ときは言った。「だんだんと、あやかしの気配が濃くなってきます」 「そうか」  とだけ、喜一郎は答えた。無視したのではないあかしに、歩きながら、すうっと息を深く吐き、丹田に気を集中させるのがわかる。  ふたりはいま、屋敷の外廊下を歩いて、竹丸が療養している部屋に向かっていた。  ふたりの前を、用人の倉田と、乳母のたえが歩き、ふたりの後ろを、若侍と女中がついてくる。うしろの若侍と女中が、それぞれに鬼一郎とときの太刀を抱えていた。鬼一郎とときの行く先々へ、屋敷の者たちが刀を持ってついてきてほしい、というのが、喜一郎の出した代替案であった。  たえのとりなしもあり、「そのくらいならば」と倉田が納得したのである。  父のほうは、実はさほど剣の腕が立つわけではない。むしろ体術のほうがよほど使えるので、剣が離れていても、さして問題はない。  剣はときのほうが腕が立つ。七つのときから、女だてらに町道場で鍛えてきた。そして、十二の年、ある事件がもとで、顔と身体にやけどを負い、あやかしが見えるようにもなったし、憎むようにもなった。十三の年、縁があって、あやかしを斬ることができるという妖刀〈かまいたち〉をゆずられ、あやかし退治をなりわいにして、いまにいたっている。  本当は〈かまいたち〉を腰に差しておきたいところだが、次善の策として、そばにいる者にあずけておくのも、やむをえない、と考えていた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加