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四
「父上」
鬼一郎から少し遅れて歩きながら、ときは言った。「だんだんと、あやかしの気配が濃くなってきます」
「そうか」
とだけ、喜一郎は答えた。無視したのではないあかしに、歩きながら、すうっと息を深く吐き、丹田に気を集中させるのがわかる。
ふたりはいま、屋敷の外廊下を歩いて、竹丸が療養している部屋に向かっていた。
ふたりの前を、用人の倉田と、乳母のたえが歩き、ふたりの後ろを、若侍と女中がついてくる。うしろの若侍と女中が、それぞれに鬼一郎とときの太刀を抱えていた。鬼一郎とときの行く先々へ、屋敷の者たちが刀を持ってついてきてほしい、というのが、喜一郎の出した代替案であった。
たえのとりなしもあり、「そのくらいならば」と倉田が納得したのである。
父のほうは、実はさほど剣の腕が立つわけではない。むしろ体術のほうがよほど使えるので、剣が離れていても、さして問題はない。
剣はときのほうが腕が立つ。七つのときから、女だてらに町道場で鍛えてきた。そして、十二の年、ある事件がもとで、顔と身体にやけどを負い、あやかしが見えるようにもなったし、憎むようにもなった。十三の年、縁があって、あやかしを斬ることができるという妖刀〈かまいたち〉をゆずられ、あやかし退治をなりわいにして、いまにいたっている。
本当は〈かまいたち〉を腰に差しておきたいところだが、次善の策として、そばにいる者にあずけておくのも、やむをえない、と考えていた。
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