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歩くにつれて、あやかしの気配はますます強くなっていった。
それは、匂い、に似ていた。鼻に感ずるものではないものの、目に見えぬものが宙をただよい、流れてきて、なんとも言えぬ不快感を引き起こすのである。
外廊下と塀の間には、手入れの行き届いた庭が続いている。昼下がりの陽をあびて、本当なら、松やつつじの葉が青々と輝いて見えるはずである。しかし、あやかしの気配を感じるときの目には、どれもくすんで色を失ったようにしか映らなかった。
「こちらでござる」
やがて、先頭を行っていた倉田が、歩みを止めた。たえも足を止め、ふり返って、喜一郎とときに目くばせする。若君のおわす部屋であるから、粗相のないように、という意味だろう。
「竹丸君、たえでございます」
たえがひざをつき、障子戸の向こうへおとないを入れると、なかから男の声で「お入りくださいませ」と返事があった。
たえが障子戸を開けると、むっとするほどのあやかしの気配と、同時に瘴気があふれ出てきて、ときはひそかに顔をしかめた。わかるのはときだけで、ほかの者はなにも感じていない様子である。
たえと倉田が入り、うながされて、鬼一郎とときが入った。刀を持った若侍と女中が廊下で待っていようとしたのを、鬼一郎がなかに入らせた。倉田は渋い顔をしている。
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