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「もうすぐ、けいの誕生日だね。今度のコンサートは、やっとお前の誕生日に合わせられたんだ。そこで、新しいソロ曲も歌うのにな…。お父さんとお母さんの命日にもなっちゃったけど、ソロ曲は家族を想って作った曲なんだよ」
ほたるは、いつものように病室でけいに語りかけていた。そして、帰る前に歌おうとけいの手を握ると、いままで動いたことのなかった手が少し動いた。
「…けい?」
驚いたほたるがけいの顔を窺うと、けいの閉じていた目がゆっくりと開いた。
「……やっぱり、お兄ちゃんだったんだね」
驚きのあまり呆然としているほたるの手を握り返しながら、けいは微笑んだ。
「ほ、本当に、夢じゃない?」
「夢じゃないよ。お兄ちゃんの歌、ちゃんと聞こえてたよ。だから、思い出して暗闇から抜け出せた。ありがとう、お兄ちゃん」
慌てているほたるに、けいは体を起こしながら笑いかける。
「けいー、よかったぁ!」
ほたるは嬉しくて、けいに思い切り抱きついた。
「ちょ、ぼく、目を覚ましたばっかりだよ!?」
驚いたけいだったが、ほたるが静かになったことが気になった。
「お、お兄ちゃん…?どうしたの?」
しばらくほたるは黙っていたが、抱きついたまま静かに話し始めた。
「お前は、お父さんとお母さんと一緒にぼくを迎えに行く途中で、事故に遭った」
「…うん、覚えてる」
ほたるが話し出したことに驚きながらも、けいは頷いた。
「お父さんとお母さんは即死だった。…でも、お前は、お母さんが守ってくれて、三年も意識が戻らなかったんだ」
『もう三年も経っていたのか』と考えながら、けいは頷く。父親と母親が助からないことは、意識をなくす直前になんとなく感じていた。
「あの日、お前の誕生日を祝いたくて、できるだけ一緒にいたくて、ぼくは迎えを呼んだ。ぼくが、お父さんに迎えを頼まなければ…」
「お兄ちゃん、大丈夫」
「え?」
震える声で話し続けるほたるに、けいは耐えられず割り込んで話した。いつもは最後まで話を聞いてくれていたけいに、ほたるは驚いた。
「いま、お兄ちゃんは、なにができる?ソロ曲、家族を想いながら作ったって言ってたよね?その曲を、次のぼくの誕生日に聴かせてよ。きっと、お父さんたちも聴いてくれる」
「聞こえてたの…?」
向き合いなおした二人の間に沈黙がしばらく続いた。微笑むけいと驚くほたる。
「……そうだね。ぼくたちが笑ってなきゃ、お父さんたちも安心できないよね。…っていうか、けいが目を覚ましたのに、先生呼んでないじゃん!」
「あ、忘れてた…」
微笑むけいを見て切り替えようと思い返したほたるは、けいが目を覚ましたばかりだということを思い出し、立ち上がった。けいもほたると話すのに夢中で忘れていた。
それから、ほたるが先生を呼び、けいは数日後に退院が決まった。
「よかった。これなら、誕生日のコンサートに行けるよ」
「うん。楽しみにしてて」
病院からの帰り道、ほたるとけいは手をつないで笑い合った。
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