(二)

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(二)

     (二)  パネルで囲まれたセットの向うから、もう何度も耳にしている台詞の掛け合いが届く。覗き穴から確認せずとも、会話の合間に挟み込まれる客席からの大きな笑いが、芝居のテンポのよさを証明していた。  それが舞台袖にも伝播され、薄いブルーライトの中スタンバイしている役者たちの表情も上気させている。  再婚同士の家庭をコメディータッチで描いた舞台。―――奇しくも我が家と同じ設定。  だが違うのは、芝居はひとり息子で、うちは私―――ひとり娘。  不意に感じた首筋の息に、半身が震えた。 「ちょっとみんな、力込めすぎの感じだよな~」  ふり向くと、すぐ背後に父親役の部長。 「楽日だから自然とそうなっちゃうのかもしれんが、ほんとはどのステージも同じじゃなくちゃな~」 「……まあね」  骨組みを剥きだしにしているセットに向けたしかつめ顔に答えた。「あんたもね」という続きは飲み込んで。  彼から離れ、自分用のパイプ椅子に着いた。その下に置いてあるペットボトルで一口喉を潤す。  ほっと吐息をついた自分に、落ち着きすぎてはいけないと、キャップを強く締めながら戒めた。出番はまだ残っている。  金、土、日とある文化祭での演劇部の催しは、千人規模の収容を誇る講堂で行われている。本校他校の生徒、及び父兄たちで客席が連日埋まったのは、我が部が数々の大会で優秀な成績を収めているゆえか。  そして最終日の今日、その一席には私の……。
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