温かなオレンジ。

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温かなオレンジ。

 少し前までは、娘とこんな風に壁などなかった。  それこそ、ゲームの話をしたり、ファッションの話をしたり、娘に誘われて一緒にテーマパークへ行くことだってあったのだ。  ただ、恋愛についてはあまり話さなかった。  というのも、娘が恋愛の話をしたがらなかったからだ。それについては別に何か思うところがあるわけではない。  親子だからと何でも話せるわけではないし、血のつながりがあって、一緒に暮らしているからと言って、全て把握したいわけでもない。  ただたまに思うのは……。  ――娘がいい人を連れてきたら、いよいよ私は一人ぼっちね。  夫は早くに亡くし、女手一つ。たった一人の子と二人きりの生活。忙しくて、友人関係はすっかり音沙汰なし。ご近所さんとも付き合いは薄いし、元々あまり積極的に友人を作ろうとは考えなかったから、ほとんど交流もない。 「だからって、娘を縛り付けたくは、ないしね」  そんなことを毎日どこかで呟いていた。  そんなある日。 「――お母さん、あのね」  日曜の朝、娘が改まった態度で話しかけてきた。  どうしたのか、と食器を洗う手を止める。娘は少し言いにくそうに目を逸らしながら言った。 「あたし、彼氏できた」 「え?」  聞き返す。  娘はややあってからぼそぼそと続ける。 「……六つ上の人なんだけどさ。今度、初デートだから、意見……ほしいんだけど。……ダメ?」  手を止めていてよかった、と思った。  じゃなきゃお皿を落としていたかもしれない。  私はじっと娘を見つめた後、微笑んだ。 「もちろん、いいに決まってる」  この時の自分は盲目だった。
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