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寒々しい藍色。
結果的に言えば、娘はその先輩と上手くいかなかった。
どうやらその人は、すでに結婚経験があって、子供もいたが、バツイチになったらしい。
私は知らなかったが、娘はそれでもいいと思って付き合うことを決めたのだと言う。
「――なんで言ってくれなかったの?」
それを知った日に、思わず娘に問い詰めた。
娘はじっとスマホを見ながら、別に、とだけ口にする。
「言うも言わないも私の勝手じゃん」
その言い方に、ぴくっと肩が震えた。
その通りだ、と思う反面悔しさが込み上げてくる。
「そうだけど、でもそんな大事なこと言ってくれないなんて」
「だから」
娘の言葉を遮ってついつい口から言葉が飛び出す。
「子持ちだったってことは、養育費払ってるんでしょ? いくら好きでも、金銭面はちゃんと考えなきゃキツイと思うし……生活することを考えたら、ちゃんと考えた方が――」
「それだよ」
今度は娘が私の言葉を遮る番だった。
え? と聞き返すも、娘はため息を吐きながら「そう言うと思ったから、言いたくなかったの」と言う。
「お母さんは絶対反対すると思ったよ。普通そうだし、皆そんな反応だったし、尚更ね。でもそれで好きな人に対する言葉とか、聞きたくなかった。彼は悪い人じゃないのに」
――何よ、それ。
娘の言葉にぐっと唇を噛んだ。
すうっと息を吸い込んで「そんなの、わかんないじゃない」と言葉を吐く。
「その人、一度は結婚したのに、子供が出来ても離婚を選ぶってことは、何か致命的にダメな部分があったのかもしれない。そう考えたら反対するに決まってるじゃない。一般的に見ればバツイチって印象悪いのよ。……そりゃあ、偏見が過ぎるかもしれないけど。でも――」
「いい加減にしてよ!」
さすがに言い過ぎた、と思うにはもう遅かった。
そうして娘はそのまま家出してしまったのだ。
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