物悲しい赤。

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物悲しい赤。

 数日が経っても、娘から連絡はなく、家に帰ってくる気配もなかった。  その間、空は泣いてるみたいにずっと雨が降っていて、薄暗く寒い日々が続いた。 「梅雨入りなんて、まだまだ先なのに」  ぼやいたところで雨は止まない。  諦めて仕事に行き、フルタイムで働く。帰ってきたら家事をし、唯一の趣味であるロジックをした。  娘からはまだ、連絡がこない。  家出から一週間が経った頃。その日は珍しくからっとした晴れが空に広がった。  五月九日。  丁度母の日の朝だった。 「天気は良いけど……」  娘からの連絡は未だにない。  居場所は知っているし、そちらからの連絡はあったけど、本人からでないと、やはり心配になる。 「……まあ、無事なだけましね」  全く音沙汰のない人だっているだろう世の中だ。まだ連絡してくれる人がいて、娘もそれをわかってくれているのがありがたかった。  ただ少しだけ寂しく思う。 「もう、子離れしないとダメかなあ」  呟いた言葉は、ため息と共に部屋に溶けた。  だが、そうぼんやりともしていられない。今日もまた、一日仕事があるのだから。  朝八時から、夕方四時のシフトを終えた後、私は自転車でゆっくりと走りながら、帰路に着いていた。  日の入りが遅くなり、まだ明るい時間帯。すっかり緑色の葉を付けた並木の下は、日陰で柔く涼しい風が吹いて心地よい。 「今日の夕飯は……野菜炒めでいいかなあ」  呟きつつ、アパートの前に来る。  瞬間、ピタリ、と足が止まった。 「電気、ついてる?」  途端に頭から血の気が引いていく。  ――まさか電気、つけっぱなし!?  慌てて駐輪場に自転車を止めて階段を駆け上がる。  息を切らせながら鍵を開けようとドアノブに手を伸ばしたところで、扉がガチャっと音を立てる。 「え?」 「……おかえり、お母さん」  娘がそこに立っていた。
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