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憂鬱な灰色
「いい加減にしてよ!」
響いた声が、家の音という音を消した。
シン、と静まり返ったリビング。
私は口を開いたまま、止まった。
言いかけた言葉は喉でつっかえて出て来ない。
娘は続けた。
「あたしさ、もう二十歳になるんだよ。恋愛くらい、自分で責任取れるし。誰と付き合おうが、お母さんには関係ないじゃない。なんでそんな口うるさく言われなきゃなんないの?」
「そりゃ、心配だからに決まって――」
「それがうざいって言ってんの!」
叫び声が、キィン、と耳を打つ。
それを最後に私が口を噤むと、娘もふっと上げていた肩を落とした。
「……とにかく、邪魔しないでよ」
それを最後に娘はリビングを出て行った。
そのまま家を出たらしく、ガチャっと鍵の開く音がして、再び静かになった。
瞬間脱力して、椅子に音もなく座る。
――私だって、言いたいわけじゃないのに。
はあ、とため息が口から漏れた。
同時にびゅうっと吹いた風がベランダの物干し竿を強く揺らす。
見れば、息苦しさすら感じられる灰色が、辺りを漂っていた。
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