夏祭り

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夏祭り

「ねえ、覚えてる?次の土日は夏祭りよ。夏祭りには帰ってくるんでしょ?」 幼馴染みの夏海からLINEが来た。 都会で就職して村を出てもう3年になる。 毎年夏祭りには村に帰ることにしている。 今年も帰ると夏海と約束していたんだった。 大丈夫、夏季休暇もばっちり取ったし、今年も夏祭りには村に帰るよ。 大人になると夏海はすっかりキレイになった。浴衣姿なんてまるでどこかのお姫様だ。 そんな夏海を見るのは楽しみだけど、今年はそれだけじゃない。 夏海を愛してる、その想いを伝えると心に決めているんだ。 楽しみが待っている時というのは頑張れるものだ。絶好調に仕事を片付けて故郷の村に帰る電車に乗った。 故郷の村に行く前には国境の長い長いトンネルがある。 このトンネルはこんなにも不気味だったかと思える程に真っ暗闇で、寒気がして震えが止まらない。 すれ違う電車はまるで幽霊電車のように不気味で妖気を放っていた。 トンネルがまるで地獄のようだったのが嘘のように国境の長いトンネルを越えるとそこは故郷の駅だった。 駅では夏海が迎えに来てくれていた。 夏祭りは明日からの土日のはずだが、もう始まっていて、夏海が遅いと少し拗ねる。 おかしいな、日にちを勘違いしたのかなと思いつつ、屋台で生ビールを買ってあげると夏海は機嫌を直した。 浴衣姿の夏海はやっぱりキレイだ。 言わなくちゃ、夏海に自分の気持ちを。 そう思った瞬間に屋台も盆踊りも全て消えて暗闇の中にボクと夏海は取り残された。 「ねえ、覚えてる?」 ボクは夏海の口から衝撃の真実を聞いた。 1年前、夏祭りの最中に流星が墜ちてこの村は壊滅したのだ。 それはボクが夏海に想いを告げた瞬間だった。 それは夏海がボクの想いを受け入れてくれた瞬間だった。 そしてそれはボクと夏海が初めて口づけた瞬間だった。 ずっと一緒にいようねとしっかりと抱き合ったままボクと夏海は最期を迎えたらしい。 ボクと夏海は手を取り合ってあの世逝きの電車に乗って旅立った。 そうか、さっきトンネルですれ違った幽霊電車はあの世逝きの電車だったのか。 流星が墜ちて村が壊滅した時に線路も壊滅して環状線状態になってしまったらしい。 つまりボクは・・ボクたちはあの世に逝くこともできずに夏祭りが始まる前の時間と村が壊滅する時間をぐるぐると回り続けている。 夏海は先に下車して、ボクは村に帰る前の時間まで電車を降りれない。 「ねえ、覚えてる?土日は夏祭りよ」と夏海からLINEをもらう時間まで戻ってきてしまったのだが、記憶も全てリセットされている。 今年は夏海に想いを告げるんだとボクは故郷に帰るのにいそいそとしている。
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