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序
――唄が聞こえた。
いたずらに立ち入ることを赦されないこの蘭山で、唄声が聞こえたのだ。
少女はごく自然に身体の向きを変えると、峻険たる獣道を進んでいく。
そして一心に耳をかたむけて探す。清水より透明で、風のささやきより優しい声の主を。
「――誰そ」
「あっ、ふ、麓の街に住む者です! あの……」
ふいに声をかけられ、飛びのいた少女は、まったく同じ質問を返そうとして、すでに答えを知っていることに気づいた。
以前、長老が口にしていた。蘭山には古くから大妖が棲みついている。たしか名前は――
「……トウテツ」
間違いない。字は、難しかったから書けないけれど。
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