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「人の子が、結界のすきまから入り込んだか」
聞こえた声が遠く、違和感を覚えた。
弟はもっと近いところで話をする。きっとトウテツは、羆みたいに大きいのだ。ううん、妖魔だもの。それより大きいかもしれない。
「ただちにこの場を立ち去れ」
そっけない言葉が耳に届いたと思えば、落ち葉を踏みしめる音と気配が、みるみるうちに遠ざかってゆく。
「待って! 待ってくださ、いッ!?」
足を滑らせ、直後に衝撃が襲う。ほろ苦い土の匂いで、むなしさが込み上げた。
はるか頭上でこぼれるため息。離れかけていた足音が近くなる。
もしかして、戻ってきてくれたのだろうか。
「お気になさらず。いつものことですから」
はにかんで頭上を仰げば訪れる、謎の沈黙。
「おまえ……目が、見えないのか?」
少女が血相を変え、振り返る。
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