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「真名を口にするとはな。名を呼ぶ言霊は、最も強力だ。むやみに口外するな」
指が離れる。と、肩に鉛を置かれていたような感覚がなくなり、四肢の自由を取り戻すことが叶った。
「俺は余計な干渉を好まない。害することも、媚びへつらうこともしない」
せっかく近くに感じるのに。鼓膜を震わせるのは、抑揚にとぼしく、感情を読み取りにくい声音だった。
「だが、今宵の出来事を他言しない、これから先もそうすると誓うなら、俺は拒まない」
「……え? それって」
「来れば、話し相手くらいにはなれる」
頭上では、いつからか、穏やかな響きが奏でられている。
「わたしを……必要として、くれるんですか?」
「二度は言わない」
……あぁ、何だろう、これは。
胸を震わせる熱いものが、あふれて、止まらない。
こころに、花が咲いた。
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