青春の頃

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 高橋も高木も何も言わない。山本も何も言わない。 「次は俺か」  高木が口を開く。 「心霊番組ってあるじゃん? 俺も送ったことあるのだけど、心霊写真とか取り上げられるよな。俺、そういうのが好きで本も買ったんだよ。心霊写真だけ集めたやつな。それで一番衝撃だったのが、霊ははっきり写っているのに、その霊、首から上がなかったんだよ。怖くて、俺、つい周りを気にしだして、たまたま鏡を気にしだしたら、そこにその霊映ってたんだよね。心霊番組に送ろうかと思った話だけどやめたよ。ああいうの霊障もあるって聞くからさ」  また、しんと静まる。 「おい、山本の番だぞ?」  船橋がそう言ったが山本からの返事はない。 「山本くん?」  高橋も心配そうに声をかけるが、返事はない。 「いないのか!?」  高木がそう言ったものだから、船橋はもぞもぞと動く。 「駄目だ! 船橋動くな! 視界が見えない中、下手に動くのは危険だ!」 「でも山本くんが!」 「山の外は危険だ! 下手したら俺らも危ない!」  高木の鬼気迫る声に船橋も高橋も黙ってしまう。 「余計な音は出すな。きっと山本は無事だから」  高木の提案に船橋も高橋も無言で頷いた。  長い時間が始まる。ただ聞こえるのは雨音。時間の進みも分からずに、三人は目を開いていた寝袋の中で時間を過ごす。  額には汗が浮かぶ。山本の無事が確認できるまでは、寝ることすらできない。  誰も口を開かない。軽口を叩く余裕もない。  雨音はさらに強くなる。 「トイレ」  船橋がそう言って寝袋から出る。しかし暗闇で手こずっている。なんとか這い出し、テントの入口を開けると僅かに光が差し込んだ。 「山本がいる!」  高木はつい叫んだ。高木は普通に寝袋で寝ていた。 「良かった……。無事だった。っと、トイレ!」  高橋は寝袋から出て、山本の頬に触れる。 「本当に良かった……」  そこで山本が目覚める。  高橋と高木が微笑みながら自らを見つめることに山本は首を傾げる。 「どうしたの?」 「なんでもないよ」 「ああ。なんでもないさ」  山本はやはり首を傾げる。 「何でもないって雰囲気じゃないんだけど?」 「きっとそれは友情の賜物だ。船橋に二度と原始的キャンプさせないようにしとくから」  高木はそう断言した。 「まぁ暇すぎるもんね。そろそろ朝食の準備する高橋さん?」 「そうしよっか」  後日、船橋は高木からさんざんになじられて原始的キャンプは中止になった。  このキャンプの話は、船橋と高木と高橋の胸の中に秘められた。  話題にするにはちょっと恥ずかしいからだ。  結局、何にもなかったのが、口にしづらい原始的キャンプの話だった。 了
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