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憎しみという名の炎
炎と表現しているが、これは虚像だ。それは心そのものと同じく、この世に存在するかどうかも判らない、いつでも消えてしまいそうな、か細い火だ。記憶が失われれば、更に小さくなる。己の身をすり減らし、後僅かで燃やすものが無くなり、消え去りそうな蝋燭の火。
そんなものを頼みとするなど馬鹿げている。けれど、絶望の海ではこれしか、己の生を繋ぎとめるものは存在しない。優しさや慈しみはむしろ憎しみの火を消し去り、死が訪れる可能性さえもある。その場合は、現実への帰還を強く願うばかりだ。
弱きを知り、心を知り、他者を知る。そうして生み出された憎しみという虚像の炎の名を情熱と言う。それは怒るのだ。他の生にではない。この世界そのものに対して怒るのだ。我らを何故生み出したのかと。炎となりて心を渇かす。優しさや慈しみさえも燃料として。
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