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私は小さな白い灯台の下で、抱えてきた大きめのトートバッグから厳重にビニールで包まれ保冷された、首から上だけの彼くんを取り出す。
少し血色が良くない。やっぱりクーラーボックスのほうが良かったかな。でもあれは目立つし重いんだよねえ。
ごめんね彼くん。でも彼くんも悪いんだよ?
今日はずっと前から約束してたのに酔っ払って起きられないんだもん。
でもこの記念日デートには絶対きて欲しかったし、この数年彼くんすぐに乱暴するからさ、今日は無理そうだったらたとえ首だけでも絶対連れていくぞって決めて準備してたんだあ♪
首から下はベッドに置きっぱなしにしてきたけど、凄く眠たそうだったし別にいいよね。
揃いの制服を着たひと達がたくさん岬へ集まって来る。
私達を取り囲むようにたくさん。
スピーカーでなにか言ってる。
私は彼くんを胸に抱いたまま制服のひと達に微笑んで返した。
ほんとはふたりきりがよかったんだけど、仕方ないね。
私達のために集まってくれたんだもの♪
交際七年目の記念日をこんな多くのひと達に祝福されて迎えられるなんて、私たち幸せだね♪
「ねえ、覚えてる?」
私は彼くんに語りかける。
きみがここで囁いた愛の言葉を。
きみがここで初めてしてくれた口づけを。
私、本当に嬉しかった。
だから君との楽しかった嬉しかった綺麗だったときめいた思い出の全部をもう一度だけなぞってこれまでの人生で一番一番いっちばん幸せの絶頂をもう一度味わって。
みんなの前で私、きみに口づけをしたの。
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