愛が止まらない。【1】

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 秋、鮮やかに(よそお)う。  目に眩しい蒼天に、白雲が点々と散らばっている。ふわふわと流れゆくそれは、綿菓子を千切ったような柔い切れ端を空一面に連ねてるんだ。 「ふあぁ、綺麗だなぁ。透き通った蒼に、ふわっふわの白い雲。そんで、手前には木々の紅葉が広がってるときた。この対比、堪んねぇな。秋って最高っ」  両手を広げ、大きく深呼吸。胸の奥まで深く吸い込んだ午後の風は、爽やかで涼やかだ。 「なっ、土岐!」  深まる秋の色の中、全開の笑顔を隣に向ける。  すると、俺と同じようにフェンスに手をかけ、屋上に吹く風に身を晒してる相手は薄い笑みを返してきた。 「ふっ、確かにここからの眺めは見事だな。が、お前、数週間前には『夏って最高』と言ってたぞ。お花見の時期には『春って最高』とも言っていた。結局、どの季節も好きなんだろう?」 「うっ……」  真横から流し目ともに放たれた甘いテノールに、声が詰まった。  はい、ズバリ正解。そうです。当たってます。  俺は春も夏も秋も冬も好き。苦手な季節も、嫌いな季節も無い。全部好き。だってさー。 「うん、そうだよ。どの季節も好き。でもそれは、お前が隣にいてくれるから、だよ。お前と一緒に過ごせる毎日が最高に嬉しいから、四季の移り変わりは俺にとって関係ねーんだ」  春夏秋冬、どの季節だってオールオッケー。俺のスタンスは変わらない。  大好きなお前とこんな風に過ごせる時間があれば、猛暑も極寒も台風も長梅雨も愛しいよ(た、たぶん)。  四季の移り変わりの度に、恋の俳句だって詠めちゃうんだぜ(た、たぶん)。  なんたって、俺は最強の季語を持ってるからな! 「奇遇だな。常々、俺も同じことを考えてる。四季なんて、ただの時間の積み重ねだったはずなのに。いつの間にか、少しも取りこぼさないよう、お前との思い出を胸に刻むようになった。それが俺の心を豊かにしてくれてると、わかる。——武田、お前を好きになって本当に良かった」 「……っ、土岐ぃ」  ほらな! ここにあるだろ、最強の季語! 「と……土岐奏人。不意打ち、やめて。失神しちゃう。一句詠んだけど、字余りぃ」 「ふはっ。なんだ、その陳腐な句は」 「いいんだよう。恋の俳句、秋の第一弾なんだからぁ」  春夏秋冬、俺の『恋の季語』は、ときかなと。  土岐、お前が大好きだーっ!
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