2人が本棚に入れています
本棚に追加
約束の今日
「ねぇ、あの日の約束を覚えてる? 私との約束」
私は彼に再び尋ねる。彼は空を見上げてピクリとも動かない。
どうしてこんなことになったのだろう。せっかく一緒に展望台から飛び降りたのに、彼だけ先にお別れを済ましてしまうなんて。
彼から提案された約束は今でも覚えている。
ここから10年、この世界との向き合い方が見つけられなかったら、ここで2人で再開しよう。そしてこの展望台から飛び降りて、この世界とお別れをしよう。
彼は子供のように無邪気な笑顔で提案した。そして今、彼はその願いを達成したのだ。彼の表情は心無しか幸せそうに見える。
それにしても失敗した。こんなことなら先に私の約束を果たすべきだった。彼との再開に浮かれてしまい、初歩的な失敗をしてしまった。
次は私の約束を果たす番だ。彼に近づこうとするが、体が思うように動かない。下半身の感覚がない。
だけど視線は下に向けないようにする。恐らくだけど、自分の体がどうなっているかを把握してしまったら、痛みで動けなくなると思う。
腕の力だけで彼に近づく。意識がどんどん遠のいていく。このままだと私の約束は果たせないかもしれない。
彼と一緒にこの世界とお別れが出来る。それだけでも幸せなことだが、その前にどうしてもしたいことがあった。
28年間生きてきた中で、最も幸せだった日のことは今でも覚えている。その日にしたことを、もう一度してからこの世界にお別れをしたい。
意識がどんどん遠のいていく。比較的暖かい日のはずなのに、体は氷のように冷たい。
それでも体を動かす。全ては私の願いのために。
私の願い。それは……
「 」
最初のコメントを投稿しよう!