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あなたと交わした口付け
彼はこの世界の生きづらさを話す時、決まってスキットルの中身を口に運びながら言葉を紡いでいた。
ある時、私はその中身が気になり彼に尋ねた。彼は少し考えた末に意地悪く微笑んだ。
「そんなに気になるなら飲んでみる?」
彼からスキットルを差し出される。その当時は関節キスになるとパニックになっており、彼が意地悪く笑った理由はよく分からなかった。
中身をよく確認せず、勢いのまま口に流し込む。喉を通った途端、焼けるような感覚と共に思いっきりむせ返ってしまう。視界が一気にゆがむ。
「ごめんね、大丈夫? これ水だから飲んで」
彼が謝りながらペットボトルの水を差し出す。視界が大きく揺れる中、覚束ない手を使って口に流し込む。
この後、彼から説明されたがスキットルの中身はウォッカというお酒らしく、私はお酒と知らずに一気に煽ってしまったようだ。
どうしても気持ちが耐えきれない時、彼は現実の濃度を下げるためお酒を飲んでいるのだと優しく話した。
私は未成年なのに学校でお酒を飲んで悪いんだとからかったが、それなら君も共犯だと子供っぽく笑った。
それからも私の意識は程よくまどろんでいた。ぼんやりする意識で彼のことをずっと見つめていた。いつもは恥ずかしくて長時間見つめることが出来ないが、お酒が入ったおかげかいつまでも見つめることが出来る。
彼も私の視線に応えるよう見つめてくる。儚げな瞳に私だけが映っている。それだけでも私は幸せだった。
それから突然、彼は顔を近づけキスをしてきた。突然の出来事に酔いが一気に覚める。そして驚いた拍子に目を見開いてしまう。
彼は目を閉じている。それからしばらくしてから唇が離れる。突然の出来事に私は何も言うことが出来なかった。
「そんな熱く見つめられたら、キスしたくなっちゃった。嫌だった?」
彼は相変わらず子供っぽく優しく微笑んでいる。そんな聞き方をするのはずるい。そう聞かれて嫌だと言える訳がない。
「それならもう1回していい?」
彼は私の返事を待つことなく、もう一度唇を重ねてくる。今度はどうにか目を閉じることが出来た。口伝いに彼の体温が伝わる。
きっとこの日が私が今まで生きてきた中で、最も幸せな日だっただろう。
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