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あなたとの約束
あの日、図書室で交わした口づけ。それから私達の関係は大きく変わった……。と言うことはなかった。
確かにあの日交わした口づけは私達の中では特別な物だった。だけど交際をしようとはならなかった。彼からもそうした提案はなかったし、私自身今の関係から一方踏み込もうとはしなかった。
あの日の口づけは、あの中で完結していたからこそ美しく幸せだったのだ。だからこそ、あの日のことは極力話にも出さないようにしていた。
それから私達の関係は変わることがなく、気がつけば卒業を迎えることになった。
結局互いにクラスに馴染むことが出来なかったため、2人とも教室をすぐに出て図書室に来ていた。
図書室には私達2人しかいなかった。教室の喧騒は遠く、まるで私達だけ違う世界に迷い込んでしまったようだ。
この場所であなたと出会い、嫌だった学校に唯一の居場所が出来た。彼も名残惜しそうに図書室を見つめている。
「ねぇ、今日の夜って空いてる?」
もちろん友達などいない私に予定などない。私は二つ返事をする。そのまま未練がない学校を2人で立ち去る。
それから夜になり、私達は最寄りの駅で待ち合わせをした。彼から一緒にどこか行こうと誘われたのは始めてのことで舞い上がっていた。
彼にどこに行くのか尋ねたが、到着してからの楽しみだとはぐらかされた。彼にはこう言ったロマンチストな一面があることは、一緒にいるうちに分かっていた。
そのまま電車に乗って1時間、さらにバスに乗って1時間近く移動をしていた。彼のことは信用しているが、ここまで人気のないところに連れていかれると少し不安になる。バスを降り山道を登る。10分程歩くとようやく目的地に辿り着いたようだ。
目の前には大きな展望台がそびえ立っている。周りには大きな建物はなく、展望台の存在感が際立っている。
彼はそのまま階段を登り始めた。かなり老朽化しているのか、1段踏みしめる度に軋んだ音が鳴っている。
恐怖心を抱きながら頂上に登ると、辺り一体を見渡すことが出来た。街の灯りは遠く、いつもより星空が綺麗に見える。もちろん満点な星空とまでは行かないが、普段見ている物よりは格段に美しく見える。
彼はこの場所にも定期的に訪れているらしい。ここは建物が古くなっていることもあり、人が滅多に寄り付かないとのことだ。確かにこうしている間も、私達以外に人の気配は感じない。
それから2人で黙って星空を見上げた。しばらく星空を見上げたら、彼は私にある提案してくれた。
あの図書室に通えなくなった今、僕達には会う場所がなくなった。だからもう会えない。だけどこの先、もしもこの世界で生きていくことが難しいと思い続けたのなら、10年後の同じ日にここで会おう。
ロマンチストな彼らしい素敵な提案だった。その後に彼から一つの約束を交わされた。もし10年後に再開できたら、この場所でやりたいことの提案だった。彼の提案に私は二つ返事をする。
そして私からも一つの約束を交わした。彼はそんなことならお安い御用だと快諾してくれた。
そして私達は10年後に向けた約束を胸に秘めて互いに別れた。
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