2人が本棚に入れています
本棚に追加
あなたのいない10年
それから私達は一切連絡をとらなくなった。私は約束の日が来ることを待ち望み、毎日をがむしゃらに生きていた。そもそも10年という途方もない時間を彼が覚えている保証などない。
だけど当時の私は、確信に近い思いがあった。彼は10年後にあの場所に来てくれる。
本当はその間に、この世界とのまとまな向き合い方を覚えて、彼のことを忘れるべきなのかもしれない。彼だって、私のことを忘れて他の人と幸せになった方がいいとは思う。
それでも私には彼との約束を待つ以外の選択肢はなかった。彼との約束を待つ10年は皮肉なことに、彼と過ごした日々の次に充実していた。
明確な目標を持つことにより、日々の生活は活力に満ちていた。私はその活力をすべて日常生活をやり過ごすことに注いだ。
そうしているうちに10年の月日が経過していた。結局私は彼のことを1日も忘れることをなく、この日を迎えたのだ。
私は期待に胸を膨らませて展望台に向かった。約束の時間は深夜12時。彼がいない可能性も十分にあったが、私にはそんな考えは微塵もなかった。
展望台に辿り着き階段を登る。階段を登りきった先に、1人の男性が立っている。彼は10年前と変わらない優しい笑顔で私に微笑んでいる。
「君ならここに来てくれると思ったよ。さぁ10年越しの約束を果たそうか」
最初のコメントを投稿しよう!