7人が本棚に入れています
本棚に追加
『一人は寂しいよ………。誰か、誰かいないの?』
「あかね〜、昨日のアレ見た?」
「ごめんっ。昨日バイトあってさ………」
『おねーちゃん。ねぇ、僕のこと見えてるんでしょ』
「うわ、それはどんまいw」
「私の推しがいたのにちょーショックで___」
いつも通りに、いつもと同じ道を変わらぬ速度で歩く。
周りの会話する声に混じって、1人の少年が今日も変わらず一人一人に声を掛けているのが見える。
犬のお散歩をしている年配の方、駆け足で駅に向かうサラリーマン、駄べりながらゆっくり歩く女子高生。
更に野良猫にまで声をかけている。
そして僕にも、
『おにーちゃん!あのね、僕迷子になっちゃったの……。一人は寂しいの。
だから 一緒に いこうよ』
「ッ………」
ダメだ。見てはいけない。
返事をしたら終わる。
不自然にならないような動きで、首にかけていたヘッドホンを装着する。
スマホを操作し、あたかも音楽を聞いているかのように周りに見せる。
すると聞こえない事が分かったのか、少年は僕の元を去って行った。
はぁ、と思わず息を吐く。
昨年頃から現れたあの少年は、誰の目にも映る事無く1人寂しく、ここら一帯をさまよっている。
声を掛けてあげたい気持ちはあるのだが、声を掛けたら死ぬ、と少年が近づく度に脳が警報を鳴らす。
見た目は生きている人と変わらない、普通の可愛らしい少年だ。
もうこの世に居るべきではないと分かっているはずなのに、誰かを道連れにするまで少年はきっとこの世に留まり続けるのだろう。
それは幼い彼の気持ち故なのか、死んでしまったが故に狂った事での行動なのか僕には分からない。
今日も見て見ぬふりをしながら駅を乗り継ぎ、大学に向かった。
最初のコメントを投稿しよう!