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「紫音、一つだけ約束してほしいんだ」
締め切った薄暗い部屋の中、蓮君がポツリと口を開く。
テレビも付けていない無音の家の中は、少し肌寒い。
私は、ハーブティーを口に含みながら「何?」と訊き返す。
「もしも誰かに、逃亡犯の俺と一緒にいることがバレたら」
「………」
「俺が事件を起こした人だって、知らなかったことにしてほしい」
蓮君が前のめりになったと同時に、彼のコップの中のお茶が揺れた。
満タンに入っているから、溢れてしまいそう。
「蓮君、お茶飲まないの?」
「あ」
私に言われ、蓮君は初めてお茶に口を付けた。
「いい?」
一口飲んで、さっきのことを畳み掛ける。
「………。それは、私には無罪でいろってこと?」
蓮君は静かに頷く。
私は、考え込んだ後口を開いた。
「でもそれ、私、ずるくない?」
「どうして?」
「だって、私が蓮君にここに住まない?って誘ったし、蓮君が出て行こうとした時も、引き止めた。それなのに……実際バレたら私だけ知らなかったふり?」
蓮君は、少しの間黙り込んだけれど、すぐになんとも言えない顔で私を見た後、静かな声で話しはじめた。
「お願いだ。犯人を隠した人も、罪になるんだ。紫音を巻き込みたくない」
儚くも力強い言葉に圧倒されて、私は「わかった」と頷くことしかできなかった。
私だって、蓮君に幸せになって欲しいって思うのに。
そう心の中でつぶやいた瞬間、私の頭の中は、ものすごく矛盾しているかもしれないと思った。
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