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 教室に着くと、誰にも挨拶をせずに席に着く。  クラスメイトの誰も、私のことを目に映してくれないし、勿論挨拶もしない。  少し前は、それが寂しいと思っていたけど、無理に笑っておしゃべりしてもらっていた時よりかは、今のほうが楽かもしれない。  私の前の席の子が「おはよーっ」て笑顔で、私の前を通り過ぎていく。  一瞬自分に言われたのかと思ってシャキッと背中を伸ばしてしまったけど、おはよーは、私の後ろの子に言った言葉だった。  そりゃ、そうだよね。  「え! マジ? それ最悪じゃない?」  「声でかいよ。聞こえるって」  誰かの悪口が聞こえてくると、心臓がドキドキして全身の筋肉が硬直したみたいになってしまうから、咄嗟に耳を塞ぎたくなる。昔から、女の子達が集団で忍び笑いしている姿がとても苦手だった。なぜか、全て私のことを言っているんじゃないかと思ってしまうから。  もっと苦手なものがある。  それは、昨日誰とどこかへ行ったとか、家族に何かしてあげたとか、満たされた、幸せそうな会話が聞こえてくる瞬間。  そんな会話も苦手だなんて、私って、本当に嫌な人間。  多分、家族のいない私は絶対にその満たされた場所へは行けないから。それがわかっているから。悪口よりも苦しく感じるのだろうな。  だから私はイヤホンをつけて、音楽を聴きながら雨を見つめたり、大好きな本を読んだりして過ごしている。    この世界には、私は必要ありません。  そんなふうに、思いながら。
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