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 三時四十分。  これは下校時刻だ。私にとって苦痛から解放される瞬間の時刻。おかしなことに、三と四の数字が好きになっている自分に、最近気が付いた。  学校にいる時間は、とても長くてしんどい。そこにある空気は、酸素じゃないんじゃないかって思うくらい息が吸いにくいし、空気が重たいせいか手足も動かし辛い。  だから、帰るのがどうせ一人ぼっちの家だとしても、呼吸が楽になって、顔を上げて移動できるだけマシだった。    昇降口で、傘を広げる。  墨を垂らした水のような、薄いグレーの空から、細かい雨が降っていた。  今日はついに、誰とも会話をしなかった。  いつもなら、私を哀れに思った担任の先生が少し話しかけてくれるのだけど、出張だったため、それもなかった。  雨が強くなってきて、肩まで伸びた黒髪を徐々に湿らせていく。  雨に打たれて濡れていく街は、いつものような活気はなく、どこか、泣いているようだった。  今日は気温が低いからか、冷たい雨だ。  家に着いた頃には、手が真っ赤になっていて、鍵が上手く開けられなかった。          
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