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指を怪我したらしい。最悪だ。
よりによって、今この人と顔を合わすなんて。
とりあえず、目が合わないように黙って俯いていていると
「あのさ」と、声をかけられた。
今更いったいなんなのだろう。
そう思いながら、半ば睨みつけるように彼を見た。
「君に会えて、ちょうどよかった」
私はものすごく会いたくなかったです。って、はっきりそう言えたら楽なんだろうけど、どうしても、それができない。
「なんていうか、俺、こんな大事になると思ってなかったんだ」
「………」
「つまり、なんか本当ごめん。ずっと謝りたくて」
何を言っているんだろうこの人。今さら、ずるいよ。
粉々に砕けた、修復不可能なガラスのようになってしまった私の立ち位置を、今になってどうにかしようとしてくれているの?
「君に、受け入れられなかったことが悔しくて……。最初は、いい気味だと思ってたんだけど、今はとても見てられない」
「……。見ていられない状況を、今の私に、どうしろっていうんですか?」
「いや、木谷さんは、何もしなくていいんだ。ただ、責任持って君はストーカーじゃないことを、俺がみんなに証明する。俺の勘違いだったって」
「……。あなたがそれをしてくれたとしても、今の私の状況は変わらない気がします」
「変えてみせる。だから、その、……一回俺と付き合ってみない?そしたら、うまくいくんじゃないかって……」
え?どうしてそうなるの?頭が付いていかない。
何を思って、この人はこんなこと言うのだろう。
私のこと、好きなの?
好きだったとしたら、あんな酷いこと、するわけないよね。
「ごめんなさい」
「………」
「私、好きな人いるんです」
「……あ、そうなんだ。そっか」
もともと気まずかった空気が、いっそう酷くなる。
「また、嫌がらせしますか……?」
「しないよ。もう。絶対」
どういう感情か、自分でも理解不能だけど、なぜか涙が溢れた。
意味わからない。の用語が心の中でずっと連発される。
「すみません。さよなら」
そう言って、私は保健室を出た。
流れてくる涙を拭いながら、教室へと戻った。
荷物を纏めると、六限目の世界史の先生に、体調が悪い事を伝え、家に帰った。
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