過ぎ去りし日々

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過ぎ去りし日々

「……なあ。 覚えてるか」 パンケーキに顔をとろかせながらも、妻は自分を見た。 「初めてデートした時にさ。 引っ張るように手を繋いだら。 真っ赤になったよな」 今、この場でしなければならない話は、これではないはずだ。 分かっている、けれど言葉が口からついて出てくる。 「県外のイルミネーションを見に行った時。 途中から雨降ってきて。 冬だし寒いし。 一緒に雨やどりしながらあったかいの食べたな、あれなんだっけ」 「おでん、だったかな、あれ焼き鳥? あったかいのを飲んだ覚えはあるけど。 なんだったかな」 妻も食べる手を止めて、思い出すように考えてくれた。 「御朱印集めもしたな。 子供が生まれてからは全然だったけど。 行った先で美味しそうな店見つけてさ、お茶するのが楽しかった」 「御朱印帳を全部埋めよう、とか言ってたもんね」 妻は懐かしむように笑った。 「そういえば旅行先では、大体ペンダント買ってくれたよね。婚約指輪も私が指輪があまり好きじゃないからってダイヤのペンダントだった」 「子供が生まれたら、つけてる余裕なんて全然なかったけどな」 「紫陽花とかも観にいったよね。 オオデマリも。 何寺だったっけ?」 微かに笑いながらコーヒーを口にする。 いつもより、苦くて味わい深く感じられた。
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