とんとん拍子

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とんとん拍子

皆で仲良くこの家で過ごすための話し合いなど催されもしなかったのに、妻が家を出るための話し合いは何度となく重ねられた。 勿論妻と両親は向き合っていない。 全て自分を介して話し合いがなされた。 親権、養育費、妻のその後の生活、子供との面会……片付けなければいけないことは沢山あったが、話は嘘のように進んだ。 妻も両親も、本当に限界だったのだ。 自分が妻と子供達を連れて出る選択もあった。 それでも自分はこの家の長男だ。 父が亡くなれば、問答無用でこの家に戻らなければいけない。 それに田んぼは続けていかなければいけないし。 子供達の金銭的な面や精神的な面も考慮した。 核家族五人が賃貸アパートでは狭すぎる。 ましてや次男三男は発達障害持ちだ。 そうなるとやはり、最善策は妻がこの家を出て、近くにいてくれること、となってしまったのだ。 妻はその決定を受け入れ、笑いながら泣いていた。 この決定の一番の犠牲は、間違いなく子供達だろう。 妻は妻の実家の近くに戻ることも考えたらしいが、結局同じ市内に留まった。 子供達との面会を考えてのことだ。 妻は二、三回不動産屋に通っただけですぐに一人暮らしのアパートを決めてきた。 その様子はどことなくイキイキしているようにも感じられた。 妻の家賃の最初の一月分は自分が持つことにした。 妻はその間に仕事を探すようだ。 専業主婦歴が長く、また製造業の会社員をしていた妻は、社会が必要とするスキルが少なかったからだ。 元亭主の、せめてもの餞だ。 泣きじゃくる子供達を最後まで宥め、長男に後はしっかり頼むね、と肩を叩いていた。 その様子に自分のほうが泣けてきた。 離婚届を二人で役所に提出する、その前に。 もうじき妻とは呼べなくなってしまう彼女が言ったのだ。 「お茶していかない?」 と。
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