プロローグ

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プロローグ

たまの贅沢で、何度か訪れたことのあるカフェに、妻と二人で入る。 しかし、これが最後となるのだろう。 席に通され、メニューを見ながら妻は尋ねる。 「(とし)さんは?」 「ブレンドで」 「そう……じゃあ、それぐらいのにするね。 チョコレートアイスにしようかな」 「いいよ、実柚(みゆ)が食べたいのを食べなよ」 妻は、大体自分が注文するものに値段をあわせるのが癖になっていた。 自分が軽食を頼めば、大好きなチョコレートパフェやケーキも食べる。 「……最後くらい、 パーッと。 奢るから」 「……そっか。 じゃあ、いただこうかな」 妻が弱々しく、なんとなく寂しそうに微笑んだ。 最後だからいいよね、と千円を超えるフワフワのパンケーキを妻は選んだ。 「ずっと食べてみたかったんだけどね、高いから。 言えなくて」 先に自分のブレンドが、しばし遅れて妻の待望のパンケーキが運ばれてきた。 妻は分かりやすく嬉しそうな顔をした。 何度、この顔を可愛いと思って眺めてきただろう。
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