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二
何か手伝わなければと布団の中で横になっていた僕は、おもむろに体を起こそうとした。すると全身を誰かに殴られたような痛みが走る。頭痛もひどく、起きようにも起きられない。
「あなた、さっきアパートの外階段から落ちたばっかりよ。無理しないで」
「あ、そうだったっけ?」
ふと寝ていた前のことを思い出そうとするが、あまり記憶がなく思い出せない。落ちた時に記憶が一部吹っ飛んだようだ。一過性の健忘症というやつに違いない。妻がよく一過性の健忘症と脳卒中は違うと言っていたっけ。
「部屋まで運ぶの大変だったんだからね」
「あ、ありがとう」
素直に感謝した。妻より大きい僕の体を二階のアパートまで運んでくれたなんて、想像するだけで辛かっただろうと思う。よく僕を担いで歩けたものだと。
「こんな日に限って、隣の亜由美ちゃんや下の田中さん居ないんだもん。み~んな連休で旅行だってさ」
そうか。今日は金曜日で、これから三連休だったか。久しぶりに家にいるような気がして忘れていた。
「どこも連れてってやれんでゴメン」
「いいのいいの。今日、ここに居てくれただけで十分」
何か一瞬、妻の嫌味が刺さったような気がした。いつも妻が困らない程度には家に帰っているはずなのに。
僕の妻は手術室の看護師という職業柄、家を空ける時が多いけれど、僕は会社の出張や取引先との打ち合わせがある時以外は大抵家に帰っている。どんなに遅くなったとしてもだ。ただ、我が家にはまだ子供がいないから自由に遊んで帰る時もあるけれど、それはお互い様だと思っている。
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