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第一章 再会
「ねぇ。君、あたしの事覚えてる?」
寝ている僕の右側から声が聞こえた。
目を覚まし、声の主へ向くと最初に目に付いたのは長い黒髪で、色白の可愛らしい顔があった。
高校生くらいだろうか。
白いキャミに濃い青色のボレロカーディガンを羽織り、短めの水色スカートの見知らぬ女性が寝ている僕の顔を覗き込む。
「……知らない。誰?」
こう答えるしかないが僕の声は、掠れていた。
久しぶりに声を出したような感覚だ。
「そっか。覚えてないんだ。私はうさぎやまって書いて兎山あかり。あかりは平仮名よ。君は自分の名前は言える?」
「バカにしてる? そりゃ、言えるよ! 僕の名前は……」
……、名前を思い出せない?
「覚えてないのね。親族の連絡先とか住所とかは?」
「……ごめん。何も思い出せない。っていうか、此処何処?」
「病院だよ。覚えてない?」
「何を?」
「ぶつかった事」
記憶を辿っても言える事は何もなかった。
「覚えてない。僕が君とぶつかったの?」
「君は激しく背中から倒れて地面に頭を打ち付けたみたい」
―――― コンコン
不意に誰かが扉を叩いたようだが、返事をする間もなく扉が開かれ、当然のように足早に入って来る。
点滴を持った若い女性看護師だ。
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