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教室にペンケースを忘れたことに気がついて、先輩に「すみません! 2秒で戻ってくるので!」と明らかに不可能な宣言をして音楽室から走り出した。
音楽室は別棟の4階にあり、2階まで降りて渡り廊下を渡った後に教室棟の3階にあるクラスまで登らなくてはいけない。
学年が増えれば登る段数は少なくなるという仕組みだ、今は何とも煩わしい。
バタバタ走って先生が来るのも面倒だったために、慌てつつ足音を殺して走る。1番奥の、私のクラスに着いて勢いよく扉を開けた。
「ふっでばっこふっでばっこ〜」
へんな歌を口ずさみながらペンケースを探す。自分の席の引き出しに手を入れ、ごそごそするも無い。なぜ、と慌てていると「おい」と後ろから話しかけられた。
「うわっ!」
がばりと振り向くと、後ろに立っていたのは謎男こと伊坂だった。話しかけられるのは初めてで、驚いた。
「伊坂、なにしてんの」
「もしかしてペンケース探してる?」
「そうだけど……なんで?」
急に喋りかけてきたと思えば、人の要件をずばりと当ててくる。変な人すぎて怖くて、逃げたくなった。
「俺、安達のペンケース間違えて持って行って、置きにきたんだけど」
「うん」
「部室で間違えて開けて、そん時に何本か落としてそのまま落ちてるのがあるかもしんない」
はい、と手渡されたのは間違いなく私のものだった。
中身を開けて確認すると、たしかに1本足りない。先輩に宣言した2秒どころか5分は経っていそうだけど、生憎そのペンは部活でよく使っているもので、なんとしてでも取り戻しておきたい。
「伊坂、部室どこ!? 取り行くからどこか教えて!」
「じゃあ一緒に行くわ」
とろとろ歩く伊坂を急かし、写真部の部室を目指す。もうとっくに時間は過ぎていたが、優しい先輩は許してくれるだろうと心の中で甘えた。
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