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「――あぁ、もうすぐ初夏かぁ。あっという間に春が過ぎ去ってくなぁ」
山の端に残る白雪を目線で辿りながら、のんびりと呟きを落とす。
遠い景色の美しい残雪の下には、新緑に紛れた桜のピンクが眩い彩色を見せ、上空に浮かぶ雲は緩やかに流れゆく。
ほーんと、この部屋って見晴らし良いなぁ。
「何を見てる? 気になる物でもあったか?」
「あ、ううん。なんとなく眺めてただけ。もう初夏だなーって」
「レモンジンジャー、飲み終わったのか。じゃあ、そろそろ出るぞ」
「うん」
お前の身支度が終わるの、待ってただけだよー。
土岐お手製のアイスティーを飲み干し、空になったまま手持ち無沙汰で両手で包んでたグラスを片手に持ち替え、立ち上がる。
土岐の家は、メゾネットタイプの広めのマンション。玄関のある下の階に行くため、吹き抜けの階段をおりる俺の足取りはめちゃめちゃ軽い。ウキウキしまくってると言っていい。
「レモンジンジャーティー、めちゃ旨かった。サンキュっ」
「口に合ったなら良かった。また作ってやる」
キッチンでグラスを洗う間も全開の笑顔。俺とは対照的に薄い笑みだけを見せてる恋人と、行き先が一緒だからだ。
「お前、今日の授業、何コマ組んでる?」
「あ、言ってなかったっけ? 日曜日だから連続で4コマ予約入れてるよ」
「俺もだ。じゃあ、終わった後、一緒に夕飯を食って帰ろう」
「うんっ」
行き先が予備校で、これから夜までぶっ通しで4コマの授業をこなすってわかってても、同じ建物内に居られるから嬉しい。
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