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「4コマ×90分だから、合計6時間。帰る時は真っ暗かぁ。集中してたらあっという間なんだけど、ぐったりだな」
「仕方ない。受験生だからな。それに、ぐったりすると言いつつ、お前、予備校以外に図書館でも勉強してるだろ? 俺より精力的じゃないか」
「あー、やってもやっても足りない気がしてさぁ。なんせ俺、医学部志望じゃん? 夢のためには頑張らなきゃ、じゃん?」
「お前の夢は応援したいが、あまり無理をするなよ。チャラチャラした見た目を裏切るお前の勤勉さを俺は認めているが、体調管理あっての受験勉強なんだからな」
唇にひとつ、軽いキスが落ちた。玄関を出る前の最後の触れ合いは、俺への気遣いと思いやりに満ちてる。
「へへっ、大丈夫だよぅ。でも、サンキュっ」
なぁに言ってんのかなー。土岐だって頑張ってるじゃん。親父さんの製薬会社を継ぐために薬学部に進むんじゃん!
生徒会活動で予備校に行けない時、自宅でオンラインのビデオ講習を夜中まで受けてんの、俺、知ってんだよ? 予備校のチューターさんが言ってたもん。
なのに、自分のことは何にも言わないで、俺のことばっか心配するんだよ。必要ねぇのに。そんなコイツが、大好きだ。
「キス、あと一回だけしよう」
「うん、俺もしたいっ」
大好きだから、ほんとは何回でもキスしたい。これは心の中だけの告白。
「名残惜しいな。時間があれば、もう一回するのに」
無表情のままキスの名残を惜しんでる恋人がくれる言葉がめっちゃ嬉しいから、俺からのおねだりは封印だ。
「行こうか」
「あっ、ちょっと待って!」
——チュッ
おねだりを封印する代わり、不意打ちのキスをひとつ。
桜の季節は過ぎ去っていくけど、風に吹かれた花びらの一片が唇にそっと乗るのと同じ感覚で。
「うへへっ。好きだよ? 大好きっ」
Get a cherry kiss!
-Fin-
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