02.モットー

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02.モットー

お客の監視の為、俺とオニオンは住み込みだ。 自宅なんてあったら、危ないしな。 寝込みを襲われるかも知れないし、 通勤中に拉致られたり、招かれざる客に尾行()けられたり。 このホテルは、深淵みたいなものだ。 (よど)んだ世間の流れで、一番深い処に(よど)んだ闇。 監禁ホテルは、人の恨みを買う商売だ。 依頼人は揃いも揃ってクレイジーだ。 一泊で諭吉や栄一を二十五人分payするほどに。 今朝チェックアウトしたのは、上場企業のお偉いさんだった。 一頻(ひとしき)り俺に罵声を浴びせて、恨みがましい目で俺を睨む。 まぁ、悪いのは俺じゃない。 お宅の経営手腕だろ。 エントランスで目隠しをされて、ガラの悪い連中に丁重に黒塗り高級車にアテンドされていった。 「お前のせいで全てを失った」 そんな捨て台詞、こちとら毎日浴びてんだよ。 命があるだけ、ありがたいと思え。 お宅の未来はせいぜい刑務所かホームレス程度だ。 この世の地獄に売られていく他のお客より、随分マシだろ? 大方、企業の派閥争いに敗れて失脚したんだろ。 弁明の場である役員会議に出られると困る側が、監禁を依頼してきたんだ。 もう解任決議もされ、役員の椅子どころか、タブレットさえ残ってないのさ。 こんなのはよくある話だ。
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