ハニー・インベーダー

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「ねぇ、覚えてる?私のこと。」 「…誰だお前は。他所の者だな。」 次から次へと舞い込んでくる、諸々の作業の手を休める暇は無い。 しかし、国の存続に関わるような件であれば、話は別である。緊急事態だ。 (すぐに対処しなければ。) 私は不審者の正体を探るため、怪しまれないよう最大限に注意しながら、専用のシステムを起動させた。 私は、この国の王である。 老若男女、私の存在を知らぬものなど、誰一人居ない。 なぜなら、私は国の全てを統治し、管理し、実行の権限を持つ、唯一の存在だからだ。 民への食料の分配も、廃棄物の処理も、川の流量も、生活環境における温度の調整も、その他様々な業務を、全て私が膨大なデータベースと自動司令システムを基に、管理している。 そして、玉座であり管制塔である、この場所から発信される司令を受け、各部署のチームが一丸となり、それぞれの業務をこなしていく。 王の業務は、365日、決して滞ることは許されない。 察しの通り、大変な仕事だ。 しかし物心ついた時には既に王となっていた私にとって、これが当たり前の生活だった。 そのため、特に疑問を感じることもなく、民のために、国のために、日々粉骨砕身、ひたすら邁進してきた。 ーデータベース照合作業中ー 機械の音声が、狭い室内に響いた。 「さては…お前、侵入者だな。」 「まぁ、そういうことになるかな。」 ー検索結果:国内該当者ナシー ー通信接続地点:映像記録アリー ー国外検索結果:該当者…………… (やはりこの国の者では無いな。) ここまでの解析結果をサッと確認し、疑惑は確信に変わった。 頭上にある巨大モニターの画面を切り替えた。侵入者の現在の様子がリアルタイムに映し出される。 「ほう。見えたぞ、お前の姿。私からは、だいぶ離れた場所にいるのだな。一糸纏わぬ姿で、キッチリと縛り付けられている様子が、良く見える。」 報告は受けていないが、いち早く侵入に気付き、良い仕事をした部下がいたようだ。 薄い桃色の肌がつやつやとしており、いかにも健康的だ。 (ふむ…。) その弾力がありそうな膨らみと、適度なくびれとのバランスが美しく、思わず私はモニターの映像に見入ってしまった。 「そうね、お腹空いちゃったなーって思ってる程度に身体は元気だけど、残念ながら、この状態だしね。あなたに直接面会に行くことは、できないわ。だからこうして、通信回線を使わせて貰っているの。」 その言葉で、私は我に返った。 (はっ!しまった。私としたことが。まずはこの不届者を何とかしなくては。) 囚われの身にも関わらず、その備え持っていた特殊な力が、未だ僅かながらに残っているらしい。 我が国では、城内どころか、国内のありとあらゆる場所、それこそ人間が容易に立ち入ることの決して出来ないような隙間にまでも、監視カメラを配備、そして超高性能通信回線が張り巡らされている。 この通信回線は、悪用以外であれば、国内在住の者は自由に利用することができる。現場の状況を確認したり、近辺の者同士が情報をやり取りすることもある。私がこの場に居ながら業務を行うためにも、欠かせないシステムだ。 その侵入者は、一体どんな手段を使っているのか定かでは無いが、我が国が誇るこの非常に優れた通信回線を、自らの力を使って勝手に利用しているようだ。 不法行為であることに間違いはない。このまま、万が一通信網を乗っ取られでもしたら、一大事である。
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