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「ちょっと何これ、どういうこ……!」
私は立ち上がって富田林に文句を言おうとしました。しかし、目の前には誰もいません。テーブルの下に隠れているのかと思いましたが、もちろんそんなこともありません。
「どうかなさいましたか? お客様」
「あの、すみません! さっきまでここにいた男を知りませんか!?」
私は近寄ってきたギャルソンに激しい口調で問いかけましたが、ギャルソンは困惑顔で首を振りました。
「お客様は一名様だったと記憶してございますが……」
「はあ!?」
私がゾッとしたのはこの時です。
改めてテーブルを見ますと、食事の皿もワインのグラスも私の分しかありませんでした。ベルベット生地の箱も無くなっていました。
まさか、と思い、その場で親や友達、大学の元サークル仲間などに片っぱしから電話をして聞きましたが、みんな口を揃えてこう言いました。
「誰だよ、富田林って(笑)」
富田林なんていう男は、最初から影も形もない幻だったのです。
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