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私たちはトンネルを引き返しました。
途中で富田林が消えてくれるように願いましたが、スタートの位置まで戻って再び明るい光を浴びても、富田林は当然のような顔をしてそこにいました。
長澤先輩が運転する五人乗りの普通車に乗って、私たちはそれぞれの家まで送られることになりました。
「なんか後ろの席窮屈じゃね?」
「村西がまた太ったんじゃねーの?」
「そんなことねえよ。おかしいなー。行きはそんなにキツくなかったのに」
当たり前です。行きにはいなかった富田林が乗っているのですから。
最寄り駅まででいいと言っていた村西さんと佐々木さんが途中で降り、車の中は運転席の長澤先輩と助手席の白石先輩と後部座席の私と富田林だけになりました。
私は富田林と二人になるのが怖くて、長澤先輩に家まで送ってもらいたかったのですが、富田林が「僕たちもこの辺でいいですよ」と勝手に車を止めてしまいました。
たちってなんだ。僕たちって。
私が睨むと、富田林はウインクをしながら小声で囁きました。
「先輩たちを早く二人きりにしてあげなきゃ。な、トモコ」
先輩たちを二人きりにするしないより、私はあんたと二人きりになりたくないんだってば富田林!!
富田林の存在はとても恐ろしかったのですが、顔は下手な漫画みたいに崩れているのでうっかり油断すると笑ってしまいそうになります。さっきのウインクも目がただの棒線になっていて、立体感も何もあったもんじゃありませんでした。
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