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今回の『異界』は水中、を思わせる場所で。それが本当に水の中であるのかを私が判断することはできない。結局のところ、私たちが得られるのはXの視覚と聴覚で得られた情報だけであるがゆえに。
水底を蹴りながら、女に連れられて瓦礫の間を抜けていく。すると、徐々に行く先に何かが見えてくる。それは水中に切り取られた窓のように見えた。窓の向こうはXのいる場所よりも一段暗くなっていて、そこから何かが顔を覗かせているように、見える。
女はその窓らしきものに近づいていく。Xもそちらに近づいて行って、そして、窓の向こうにいる「何者か」を目にした。
それは岩のような肌をした、人型の、しかし明らかに「人間」ではない何かだった。それが、いくつも、いくつも、窓に張り付くようにして存在している。岩と岩の継ぎ目を思わせる暗がりから覗く一対の光――もしかしたらそれが「目」なのかもしれない――が、じっとこちらを見つめている。
女はすらりとした手を伸ばして、窓の外に向けて手を振る。すると、岩めいた人々の一部もまたこちらにむけて手らしき部位を振り返してくる。こちらを指さす者もいれば、動かずにじっとこちらを見つめ続けている者もいる。
視界の隅で嬉しそうに無邪気に笑う女に対し、Xはどんな表情を浮かべていただろうか。わからないけれど、岩めいた人々をじっと見つめ返す。
岩めいた人々は代わる代わる窓の外を行き交い、時折立ち止まってこちらを観察している。そう、それは「観察」と表現すべきだろう。私も何とはなしに気づき始めていた。Xの置かれている空間がどのような意味を帯びているのか。
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