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翌朝、スイはいつもより早く起きると支度を済ませ、家を出た。
平原を歩いていると雨が降ってきた。
雨を凌ぐ物を生憎持っていなかった為、仕方なくそのまま歩くことにした。
暫く歩いていると雨が止み、太陽が顔を出した。
先ほどの天気は、にわか雨だったのだろう。雨粒がきらきらと反射していて綺麗だ。
これが嵐の前の静けさとも知らずにスイは海に向かって歩みを速める。
「早くあの人の姿が見たい。何故だろう、何処か懐かしい感じがするのは・・・」
目的を果たす前には風船のように想像が膨らむものだ。
そう歩いているうちにやがて海が見えてきた。気になるあまり一目散に走った。たどり着くと、あの『声』に向かって声をかけた。
「言われた通り、ここに来たぞ。姿を見せてくれ!」
するとあの『声』が囁いた。
『ワカリマシタ、タダヒトツイワナケレバナラヌコトガアリマス』
「なんだ?」
『コノコトハ、ケッシテジブンイガイノダレニモ、ハナシテハナリマセン』
「わかった。誰かに言うことは辞めよう」
『ヤクソクデキマスカ?』
「ああ。約束しよう」
『ソレデハ、スガタヲミセマショウ』
次の瞬間、目の前から眩い光が放ちスイの視界を包んだ。光が収まりゆっくりと目を開くとそこには・・・
薄紅色の瞳、白い肌、深緑色の長い髪。自分の生まれ持った身体と全く同じの女性がいた。
スイにかかっていた鍵が外れ、水泡が上がってくるように記憶が蘇ってきた。
この人は、自分を産んだ母であるということを。
そう思った途端に目頭、鼻、頬、に熱が集中し涙が溢れだす。はっきりと喋れない口をなんとか動かし言葉を発した。
「お・・・・・お母さん?」
『ハイ。スガタハソウデス。タマシイハチガイマスガ』
「そ、そうなんですか・・・」
『ワタシヲミテモダイジョウブデスカ?』
「あぁ・・・大丈夫だ。母の姿をしている貴方をみると懐かしい気持ちになるもんだな」
『ソウデスカ』
「貴方の名前は何ですか?」
『ナマエハトクニアリマセン。ワタシガツクラレタトキニハナカッタノデ』
「そうなのか。じゃあ、何故俺に話しかけてきたんだ?」
『ソレハアナタヲコノウミニヨビ・・・』
「そこまででいいわ」
振り返るとそこにはリアがいた。
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